本文へ移動

子宮筋腫・子宮腺筋症

メディア掲載

当病院の藤下晃医師(産婦人科)の記事が株式会社医学書院発行の "今日の治療指針2013年版"に掲載されました。
*21産婦人科疾患 pp.1104

子宮筋腫,子宮腺筋症 (uterine leiomyoma and adenomyosis)の病態と診断

子宮筋腫は女性生殖器に発生する腫瘍のうち最も高頻度であり、正確な頻度を推定することは困難であるが30歳以上の婦人の約20~30%に存在するといわれている。 病理組織では紡錘形を示す平滑筋線維が柵状に配列するのが特徴で「leiomyoma」と呼ばれている。

子宮腺筋症は子宮体部に発生する子宮内膜症であり、子宮筋層内に子宮内膜の腺上皮と間質がみられ、以前は内性子宮内膜症と呼ばれていたが、現在では子宮腺筋症(adenomyosis)という用語が用いられる。

両者はいずれも良性腫瘍であり、しばしば合併するが、筋腫は境界明瞭で多発することが多く、腺筋症では病巣と筋層の境界が不明瞭な点が特徴である。

診断として内診で腫大した子宮を触知し、超音波断層法である程度両者の区別が可能な場合もあるが、MRI検査で両者の鑑別が可能となってきた。 比較的大きい子宮腺筋症では腫瘍マーカー(CA125)が上昇する場合もある。
両者とも発生原因は不明のままであるが、性成熟期婦人に好発し、初経前や閉経後に増大することはないので、エストロゲン依存性疾患と考えられている。

症状としては、子宮が腫大することにより、過多月経をきたすことが特徴的である。 筋腫のなかでも粘膜下筋腫では過多月経、大量出血の原因となり、子宮腺筋症では、子宮筋腫に比べて月経困難症を伴うことが多いとされる。

治療方針

従来は、子宮が手拳大以上になれば治療の対象とされていたが、最近では、患者年齢、筋腫(or 腺筋症)の位置や大きさ、挙児希望の有無および臨床症状に応じて個々に治療方針が決定されなければならない。
妊孕性温存の必要がない場合には子宮摘出術が行われ、挙児希望、子宮全摘を拒否する患者では筋腫(腺筋症)核出術が選択される。
薬物療法としては、症状緩和目的での対症療法、術前のGnRHアナログ投与、閉経前の逃げ込み療法などがあるが、薬物療法のみでの完治は期待できない。

A.薬物療法

1.鎮痛薬
月経痛に対する対症療法として、下記のいずれかを用いる
1) ロキソニン錠(60mg) 3錠 分3
2) ボルタレンサポ(25mg・50mg) 1回 1個、頓用     
                                
2.GnRHアナログ療法
下垂体でのGnRH受容体のdown regulationが起こり、下垂体のゴナドトロピンの分泌が抑制され、その結果、低エストロゲン状態になる偽閉経療法と称される治療法である。 閉経に近い患者での逃げ込み療法として用いる場合もあるが、保険適用上6ヵ月以上の投与は認められてない。
子宮筋腫および腺筋症では術前投与により縮小が期待でき、無月経になることから貧血や症状の改善、術中出血量の減少を目的として使用される。
投与終了後、卵巣機能が回復すれば従来の大きさに復するので、一時的な効果は期待できるが、副作用として低エストロゲン状態に伴う症状や骨塩量の低下が挙げられる。
製剤としては点鼻薬と注射薬があり、経鼻投与では噴霧した際の実際の吸収率は5%以下とされ、鼻炎などの合併症がある場合には効果が減弱する。
【 処方例 】
1) リュープリン注(1.88 ,3.75mg) 1回 1.88または3.75mg、4週間に1回 皮下注
2) スプレキュアMP注(1.8mg) 1回 1.8mg、4週間に1回 皮下注
3) ナサニール点鼻薬(0.2%) 1回 200μg、1日2回、片側の鼻腔に噴霧
4) スプレキュア点鼻薬(0.15%) 1回 300μg、1日3回、両鼻腔に噴霧

3.その他のホルモン剤
子宮筋腫に対する保険適用はないが、子宮内膜症に対してはダナゾール(ボンゾール錠)、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(ルナベル錠)、黄体ホルモン剤(ディナゲスト錠)が使用されている。 子宮筋腫や子宮腺筋症のある患者では、ディナゲスト投与により出血症状の増悪の恐れがあり、添付文書では慎重投与とされている。

B.手術療法

1.子宮全摘術
根治手術として一般的に行われる術式で、妊孕性は失われる。 アプローチの違いにより腹式、腟式、腹腔鏡(補助)下に分けられる。 最近では低侵襲性の腹腔鏡下手術が次第に広まっているが、適応に限界もある。

2.子宮筋腫核出(摘出)術
妊孕性温存を目的として行われる術式である。 子宮全摘を拒否する患者も増加しており、腹式,腟式、腹腔鏡(補助)下および子宮鏡下手術がある。 内視鏡(子宮鏡および腹腔鏡)手術では適応に限界があり、術前のGnRHアナログ療法が行われることが多い。

3.子宮腺筋症核出(病巣除去)術
腺筋症は正常筋層との境界が不明瞭なこととから妊孕性温存の手術は困難とされていたが、妊孕性温存を目的とした術式(用語は決まっていない)が試みられている。 症状の改善が得られ、術後妊娠例も報告されているが、術式は必ずしも統一化されておらず、術者により様々な工夫が行われている。
従来、妊娠を諦めていた腺筋症合併の不妊・不育症患者にとっては治療法の選択肢の一つになっている。 ただし、術後の妊娠例では、流早産、子宮破裂、術後癒着などのリスクも報告されており、今後の臨床成績を集積する必要がある。

C.その他

子宮動脈塞栓術(UAE)、収束超音波療法(FUS)、子宮内膜アブレーション(EA)などが試みられているが、適応基準、妊孕性・卵巣機能への影響、副作用、合併症、長期予後などの問題もあり、健康保険の適用がないのが欠点である。
また、避妊を目的として開発されたレボノルゲストレル放出子宮内避妊システム(LNG-IUS;ミレーナ)も子宮筋腫および腺筋症に試みられ、臨床効果も期待されているが、保険適用がなく自費で使用される例も報告されるようになった。

患者説明のポイント

子宮筋腫は婦人科疾患のなかでも高頻度にみられる疾患であり、年齢、症状、発生部位、大きさなどによって治療方針が異なるが、薬物療法では根治性がないことを説明しておく。

子宮腺筋症に対する妊孕性温存手術は、挙児希望の患者では選択肢の一つに挙げられるようになったが、いまだ有効性と安全性が確立されたとは断言できないため、十分なインフォームドコンセントを得る必要があり、妊娠予後に関するデータの集積が必要であろう。


TEL. 095-826-9236
お電話でのお問い合わせもお待ちしています
TOPへ戻る